太田市美術館・図書館 ART MUSEUM & LIBRARY, OTA
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現ホーム在タウン地 -蓮沼執太

そこは東京に比べたら小さい場所で、住む人の移動手段は地下鉄やタクシーがほとんど。車も都市部ではあまり乗らないでくださいね、というようになっている。共有自転車などのサービスもあるんですが、僕はほとんど地下鉄と徒歩。この場所に来る前に都市部に借りていた部屋は大きな橋の近くで交通量も多く、自分のライフサイクルとまったく合わなくて、数ヶ月間我慢したものの、いよいよ限界になりました。インターネットを駆使して、新しい住まいを一生懸命探して、この街に来て一番好きだと感じた場所に引越しました。

住んでいた区が違うので、もちろん雰囲気も違うわけですが、歴史保護地区でもある静かな場所にやってきました。都会ではあるんですが、閑静な雰囲気を感じるところです。新しい部屋は、ストリート側の部屋には大きな2つの窓があって、通りが一望出来るようになっていました。春夏は街路樹が生い茂っていて、秋冬は葉が枯れていく。通りを歩く人々のファッションも季節で変わっていく。四季の変化が感じられる眺めでした。基本的に家で作業をするんですが、その2つの大きな窓を眺めながら制作をしていました。一本通りを行くと、街の中心にある道で、そこのスタバのコーヒーもよく買いに行きました。3ブロックほど川沿いの方へ歩くと、プロムナードという場所にたどり着きます。自由の象徴と言われる像や隣の区である都市のビルが一望できて、街を俯瞰してみえます。ビルと空のコントラスト、つまり人工物と自然の重なりが不思議ときれいで、よく写真を撮っていました。あとは区役所も家の近くにあって、春夏は広場でマーケットが開かれていて、野菜や果物をよく買ったりして、新鮮なものとの出会いを楽しんだり。そもそもこの辺りは煉瓦造りの家が多く立ち並ぶので、歩いていて気持ちが良いんです。とくに目が気持ちよかった。赤レンガ色と街路樹の色が重なりあって、雨が降れば湿気をまとって、晴れればカラッと乾燥して鮮やかな反射を作り上げる。人間って偉そうに自然を押さえつけて生きているな、と常々思っているけど、こういう街並みと自然との形を直接的に感じると、なぜか気持ちが良くなります。2020年秋、約一年ほど移動が制限されて、自分の場所はどこなのか?ということも考えました。生まれた場所、育った場所、様々な人々や物事に出会った場所、記憶に残った場所。そして、現在地を探して。

 

蓮沼執太(1983年東京都生まれ、音楽家)
(2019年度 太田の美術vol.3「2020年のさざえ堂
――現代の螺旋と100枚の絵」参加)

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